SURFER 慶輔は時々サーフィンをしに行く。
友達に安く譲ってもらった古いミニにキャリアを積んで,ボードを縛り付ける。
白いミニにピンクのボードを積んで,ノロノロと走る。
いつもは茅ヶ崎のポイントに行くことが多いが,今日はなんだか気が進まない。
もっとひとけの無い静かな所に行きたかった。
とりあえず高井戸から首都高速に乗った。
相変わらず新宿付近では渋滞だ。
のろのろ,のろのろ。
千駄ヶ谷,まだのろのろ。
車のきげんが悪くなる前に渋滞を抜けたい。
水温計を見ると不安だ。
ふだんでもガソリン臭い室内が,焦げ臭くなってきた。
「あ〜ぁ,今日一日はこれで終わったかな〜。」
と思ったが,少しすると右車線につぶれた車が見えた。
「こいつのせいでオーバーヒート直前だ!」
もんくを言いながらその車を通り過ぎ,やっと普通に動き出した。
慶輔もミニも機嫌がなおった。
慶輔は,はっきり行き先を決めていたわけではなく,御宿の方に向かうことにした。
東関道から東金道路には入り,終点まで快調にとばした。
高速を降りて車の窓をあける。
まだ海までは少しあるが,臭いが変わった。
少し走ると海が見えてきた。
コンビニに車を止め,深呼吸。
都会から抜け出したこの瞬間,いつもたまらなくいい気持ちだ。
これだけでも来た価値はある。
サンドイッチとスポーツドリンクといつものマルボロのメンソールを買った。
さっそく海岸沿いに車を止め,海の様子をながめる。
天気は良いが,風は無く波も小さい。
ちょっとがっかり。
そういえば誰もサーフィンしていない。
まあ,こんなことは良くあることだ。
もっと南に下ることにする。
海岸線はいたって単調で時々岩場があり長い砂浜が永遠と続く。
この道は波乗り道路と呼ばれているらしい。
いくつかのポイントを過ぎたが,オンショア,ダンパーぎみの波が続く。
気分はいいので,さらに南へ走った。
海に着いてからラジオが鳴らないのにやっと気づいた。
いつものJウェイブは聞こえないが,風の音で充分だ。
海岸線がけわしくなってきた。
ここまで来ると景色がだいぶ違う。
もうサーフポイントは無いかもしれない。
花畑が一面に広がる。
車を止め古い防波堤の上で海を眺めることにした。
よく見ると左右にリーフがあるが,正面はかなり長い砂浜で,波が大きくなればここでもできそうだ。
時計を見ると,もうじき日が暮れる時刻だ。
今日は気持ちよくドライブはできたが,まだ東京へは帰る気がしない。
日暮れの海を少しの間眺めていた。
後ろを振り返ると花一面の畑は暗くなっていた。
ぽつんと小さな光が見える。
よく見ると小さなネオンのようだ。
こんなところに何があるのか不思議に思えた。
近づいてのぞいてみると,どうやら酒場のようだ。
小さく看板もあった。
「Bar Jiji」
とあつた。
ここは田舎だからお年寄りの方が隠居して始めたのだろうか。
とにかく入ってみることにした。
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